日記

お題 「ピアノの弦は相当正確なものだろうが、19世紀初頭の技術で制作可能だったのか」

前回に続いて、頂いたお題の調べの結果。

○「ピアノの弦は相当正確なものだろうが、19世紀初頭の技術で制作可能だったのか」

工業技術的な事はワシは全く不明なので、以下に紹介のサイトを見て頂くのが最も良いと思います。詳しくかつ分かりやすく、大変素晴らしいサイトです。

「鈴木金属工業 – おはなしミュージックワイヤ」
http://www.suzuki-metal.co.jp/story/music/index.html

ただ、調べてみると技術問題は弦のみにあらず、その周辺も含めネットで調べてみた。なにせ音楽の素人なので、勘違い等あるかもしれません。その節はお許しを。

-ピアノを取り巻く当時のヨーロッパ社会-
出典:「ピアノ概論(URLは本稿末):ピアノの歴史/8.産業革命とフランス革命」
「18世紀後半の産業革命により、ブルジョアと呼ばれるお金持ちの市民階級が出現し、貴族社会の象徴でもあったピアノを買い求め始めました。
このためピアノの需要は急増し、家内工業的な少量生産では間に合わなくなり、工場による大量生産へと規模が拡大しました。
(中略)
また、フランス革命(1789年勃発)に代表される革命は、それまで音楽家の庇護者であった貴族社会が崩壊し多くの音楽家が職場を失いました。多くの音楽家は大衆社会に活路を見いださざるを得なくなり、演奏様式も小規模のサロンから大ホールに多くの聴衆者を集め、コンサート方式をとるようになりました。
そのためピアノはさらに音量増大と音域の拡大が必要になり、産業革命以後大きく発展した工業技術を利用して、さまざまな改良が加えられました。」

上記を略図にしてみた。
・需要供給面:貴族のみ所有→職人による手作りでも供給OK→産業革命→富裕市民拡大→需要拡大→生産性向上による大量生産
・技術面:演奏会場は宮廷内サロン→小音量でもOK→市民革命→貴族没落、市民台頭→演奏会場が大ホールへ→大音量、高い表現力を実現する楽器が必要→発展してきた工業技術の利用

-ピアノの前身となった主な楽器- ※他にも何種かあるようですが。
・クラヴィコード
紀元14世紀ごろ誕生。 構造:二つの駒の上に張られた弦をタンジェントと呼ばれる別の駒が弦を突き上げることによって発音。 音量:現代のピアノと比べると非常に小さい。演奏者が打弦した鍵盤を縦にゆらすことにより、ヴィブラートをかけられる。 17世紀にはチェンバロが主体になってきたにもかかわらず、ドイツでは感情を豊かに表す楽器として相変わらず長く愛用された。J.S.バッハの愛用したクラヴィコードは5オクターブ。
・チェンバロ(ハープシコード、クラヴサン)
1500年頃にイタリアで誕生。 構造:二つの駒の上に張られた弦をプレクトラムと呼ばれる爪が弦をはじくことによって発音。 音量:クラヴィコードよりは大きい。音の強弱はつけられない。 富と権力の象徴のため、外観には一流の装飾工芸家、画家などの手によって豪華な装飾が施された。

-需要別ピアノの変遷-
・ホール用(プロ用):大型大音量:チェンバロ→フォルテピアノ→グランドピアノ
・室内用(一般市民用):小型小音量:クラヴィコード→スクウェアピアノ→アップライトピアノ

ピアノ(鍵盤楽器)の需要には常に2種あった。相対的ではあるが、大雑把に言って大型で大きな音が鳴るホール用と、家庭でも使える大きさと音量の室内用である。これらは別々に開発が進んだのではなく、かといってその時代のホール用に開発された物を小さくしたのが室内用、と単純にいえるものでもない。その時代の技術を利用して、社会環境に合わせて結果的に常に2種類存在してきたということである。
フォルテピアノの発達においてはクリストフォリ製→ジルバーマン製は大型指向(というか特に小型を指向していないというべきか)とも思われるが、同じくジルバーマン製が元でありながらツンペ製(スクウェアピアノ)は小型指向に思われ、実際それが受けて人気となった一方で、シュタイン製は大型指向のまま開発し、モーツァルトに絶賛された。
また技術的には、巻線が小型維持の為に初めはスクウェアピアノに導入され、後にグランドピアノにも導入されたりもした。
大型にも小型にも夫々の良さとそれに伴う需要があり、製作者たちは「より豊かな音量、より高い表現力、より安定した響き」を、大ホールでも室内でも夫々に楽しめるよう、つまり2種の違った需要を満たすよう常に開発を進め 結果的にこの「変遷」にみられる流れとなった。

-技術の歴史-
・年表
1709年 クリストフォリ(伊):最初のハンマーアクション付き鍵盤楽器(後に言うフォルテピアノ)を発表。およそ4オクターヴ。→ヘンデルはクリストフォリの工房を訪ね、ピアノに大変興味を持ったらしい。
1722年 バッハ:平均率クラヴィーア採譜(作曲?)開始。
1733年 ハイドン:誕生。
1736年頃 ヨハン・ゼバスティアン・バッハ:「高音域が貧弱、タッチが重い」と、ジルバーマンの楽器(クリストフォリ発明のフォルテピアノのコピー)の批判。
1747年 ヨハン・ゼバスティアン・バッハ:ポツダムでプロイセン国王フリードリヒ2世の与えた主題によりフォルテピアノ(ジルバーマン作)で即興演奏を行う。この演奏を後に纏めたのが『音楽の捧げもの BWV1079』。この時は、バッハはジルバーマンのピアノを評価した。ジルバーマンの楽器の向上は、クリストフォリのピアノに実際に接する機会を得たことによるものらしい。後にジルバーマンはダンパーペダルの原型を発明。
1750年 バッハ:没。
1756年 モーツァルト:誕生。
1759年 ヘンデル:没。
1760年 ジルバーマンの弟子達:七年戦争(1756年勃発)を逃れて集団でイギリスへ渡る。
1761年 ツンペ(ジルバーマンの弟子達のリーダー):イギリスでアトリエを持つ。→「イギリス式シンプル・アクション*」を持つスクウェアピアノを発案、製作開始。小型で安価だったため、イギリスで爆発的な人気となる。
1768年 ヨハン・クリスチャン・バッハ(1735年 – 1782年 J.S.バッハの息子 1762年渡英):ピアノを初めてソロ楽器として公開演奏(ロンドン?)。使用したのはスクウェアピアノ。
1768年 パリにて初のピアノ演奏。歌の伴奏であった。楽器の評判はあまり芳しくなかった。
1770年 ベートーヴェン:誕生。
1775年 ヨハン・アンドレアス・シュタイン(独):製作開始。→「ウィーン式・アクション*」開発。
1777年 モーツァルト:シュタインのピアノに出会い、以後愛用(5オクターブ61鍵)。
エラール社(仏):スクウェアピアノをモデルにしたピアノ発表。。
1783年 ブロードウッド社(英):ペダル特許。
1785~1815年頃 スクウェアピアノの低音弦に巻線が採用される。グランドピアノへの適用は1820年前後。
1789 フランス革命勃発
1791年 モーツアルト:没。 ツェルニー:誕生。
1796年 エラール社:最初のグランドピアノ完成(6オクターブ)。
1796 ナポレオン戦争勃発(~1815)
1797年 シューベルト:誕生。

1800年 ホーキンス(米):アップライト型特許。
ブロードウッド社:この年、ピアノを400台生産。→「イギリス式グランド・アクション*」搭載。
1802年 トーマスラウド(英):交叉弦特許。
1803年 エラール社:ベートーヴェンにピアノ贈呈。(5オクターブと5度)
1808年 ブロードウッド社:鋳鉄プレート特許。
1809年 メンデルスゾーン:誕生。 ハイドン:没。
1810年 ショパン、シューマン:誕生。
1811年 リスト:誕生。
1819年  ブロックドン:ダイヤモンドダイスおよびルビーダイスを発明。このダイスを用いた最初のワイヤがブロードウッド社のピアノ弦に用いられた。
1820年頃 鉄の支柱が導入。
1821年 エラール社:「ダブル・エスケープメント・アクション*」開発。
1823年 シーボルトによって日本に初めてピアノが持ち込まれる。1806年頃製造のスクウェアピアノ。
1824年 リスト:エラール社製7オクターブのピアノ演奏。
1825年 アルフェーズ・バブコック(米):単一鋳鉄フレーム開発。
1826年 ジャン=アンリ・パップ:フェルト・ハンマー導入。→パップは120の特許取得。
1826年 ジャン=アンリ・パップ:高強度弦を使用。
1827年 ベートーヴェン:没。→最末期のピアノ曲は約6オクターヴの楽器のために書かれていた。
1828年 シューベルト:没。
1830年頃  ウェブスター(英):スチール弦を開発。
1833年 ブラームス:誕生。
1835年 ウェブスター、ホースフォール(英):高炭素鋼線製造開始→音量も大きく倍音も豊かになったが、鋳鉄製フレーム*でなければピアノの全張力を支えることが出来なくなった。
ボヘーム(仏):低音弦に巻線によるスチール弦を使用。
サンサーンス:誕生。
1840年 チッカリング社(米):総鉄骨の特許取得
1844年 ジャン・ルイ・ボワスロー:ソステヌート・ペダル発明
1845年 チッカーリング社:二重交叉弦完成。
1851年 チッカリング社:総鉄骨ピアノをロンドンで公開。
1859年 スタインウェイ社(米):二重巻弦を発明。
1874年 スタインウェイ社(米):ソステヌート・ペダル改良。
1890年代 スタインウェイ社(米):鋳物フレーム、オーバー・ストリンギング*・スクウェアピアノを大量生産し、人気を博した。
*イギリス式シンプル・アクション:スクウェアピアノに採用された。ハンマーが鍵盤先端の方を向いている(突き上げ式)。
*イギリス式グランド・アクション:イギリス式シンプル・アクションの改良(突き上げ式)。 特徴は、大きく、しっかりとした響きを実現した代わりに、より深いタッチを必要とし、反応が相対的に鈍い。このアクションは現代のピアノに継承。
「イギリス式アクション ブロードウッド1795年モデル」のアニメーション
http://paki3.com/history/bw.html
*ウィーン式アクション:軽いハンマーを梃子の原理で跳ね上げ打弦する(跳ね上げ式)。現代のピアノと逆向きにハンマーがついている。特徴は軽快なタッチと早い減衰。
「ウィーンアクション」のアニメーション
http://paki3.com/history/va.html
*ダブル・エスケープメント・アクション:鍵盤の動作をハンマーに伝えるジャックを、素早く始動位置に復帰させることにより高速な連続打鍵を可能にする。現代のピアノにも採用されている。
*鋳鉄製フレーム:1808年における弦の張力の総和は4.5トン。1850年頃には12トン。高炭素鋼による弦張力の増加を鋳鉄フレームが受けとめている。現在のピアノの張力はに20トンに達し、フレームそのものはその1.5倍(35トン)以上の張力に耐えるよう設計されている。
*オーバー・ストリンギング:2つの高さのブリッジを用い、張る向きの変えて弦の並びを重ねる張り方。これにより、ケースを長くせずにより大きな弦を張ることが可能になった。1820年代にジャン=アンリ・パップが発明。

-フォルテピアノの製作者の系譜-
以下のサイトをご覧ください。
「主な古典ピアノの製作者」
http://paki3.com/history/seisaku.html
「THE PIANO ピアノ製造年表」 ※こちらはメーカー このサイト自体広範に書かれていて非常に分かり良い。
http://piano.perma.jp/piano-mak.html
スクエアピアノの音 ※上記サイト内にありました
http://piano.perma.jp/square.html

・弦について
出典:鈴木金属工業 – おはなしミュージックワイヤ ※抜粋
○複弦の歴史
「ピアノはひとつの鍵盤で複数の弦を叩くようになっていると言いましたが、ひとつの音に複数の弦を与えるしくみを「複弦」と言います。
この複弦はトレモロ(イタリア語で震えるという意味。同一音の急速な反復または急速な2音の交替発音)の演奏を可能にするだけでなく、音量の増大という役割もはたしています。
1700年頃、バルトロメオ・クリストフォリによるハープシコードを改良した「グラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」と呼ばれた最初のピアノも当初から2本の複弦を持っていました。現在のような3本の複弦になったのは、音域、音量の拡大の求められた1800年頃からです。
その後の音響工学の研究で、単なる音量の増大だけでなく、音色にも深く関係していることがわかってきています。弦と響板が結合している場合、複弦の方が単弦より振動の減衰が遅くなり、余韻音が残るのです。この時、2本あるいは3本の複弦の間で、全く同じ条件に調律するとこの特性が失われますが、わずかなずれを与えると減衰がゆるやかになるのです。」

○巻線の歴史
「ピアノ弦の低音部には巻線が用いられていますが、この技術の歴史も古く、16世紀以前にさかのぼります。
弦楽器において低音を発するためには、弦の長さを長くするか、弦を太くしなければなりません。現在のピアノの一番高い音ドの弦の長さは約5cmで、1オクターブ下のドは2倍の10cmです。これを整数倍にしてゆくと、一番低音すなわち7オクターブ下のドは6m40cmの長さが必要になってしまいます。したがって、楽器をコンパクトにするためには、低音ほど弦を太くして長さを短くするという手法が必要になってきます。
巻線という技術がピアノ弦にいつ適用されたかのかということですが、文献上ではフランスのエラールが1808年と1815年にブロードウッド社を訪れ、技術を学び、その後パリに戻っていくかの技術を開発しましたが、低音弦を真鍮線から、スチール線に真鍮線を巻いた弦に変更したというものがあります。
浜松市楽器博物館所蔵のピアノやハープシコードなどの弦を見ますと、1785年~1805年頃にかけて、複数のスクエア・ピアノの低音弦にオープン巻線やクローズ巻線が認められます。
巻線のピアノ弦への適用は18世紀末と考えて良いと思います。
ちなみにグランド・ピアノに適用されるのは1820年前後で、1800年~1820年にかけてのグランド・ピアノには見当たりません。グランド・ピアノに先立ってスクエア・ピアノに適用された理由は、このピアノがコンパクトさを要求されたため、弦長を長くできず、短い弦長で低音を出すために弦の質量を増やすことが最大の理由であったと考えられます。それ以外にも、太い弦はフレーム強度の不足、早い振動減衰による響く時間の短時間化を招くため採用できず、巻線という技術にはこれらを解決するという意図もあったと思われます。
巻線において一番問題となるのは、使用中における芯線との間のゆるみ発生です。
この問題の解決策として、1885年にカリとハペルによって、芯線を三角形あるいは多角形にすることが考え出されました。
巻線を加工するには、巻きつける角度、巻き速度、銅線への張力などが音色に影響するとされ、安定した品質を保つためには、高度な技術が必要だそうです。現在では機械加工も進歩し、かなり高性能な巻線が製造できるようになっていますが、熟練作業員の水準にはまだ及ばず、コンサート用のグランド・ピアノの場合、熟練作業員により1本1本丁寧に手づくりされています。」

○弦の材質の変遷
「ピアノ以前の楽器であるグラヴィコード、ハープシコードでは、16世紀から17世紀はもっぱら真鍮(黄銅)線が、17世紀後半から低音弦には真鍮線が、高音弦には鉄線が用いられるようになりました。16世紀にハンス・ザクスという人が作ったという伸線作業の詩の中に、この関係が示されていますのでご紹介しましょう。

純粋な銅と真鍮の針金

それを私は小さいハンドル付きのリールで引抜く
たくさんの針金のコイル、錫の、Widの
そして針金ブラシを金鍛冶のために
また、私のつくった最高の五弦は
見事にハープシコード*となり
多くの土地で、細い針金から
帽子のリボンやふさふさしたモールがつくられる
*訳者によると、原文は das Claucordium となっているとのこと。Claucordium(ラテン語)は英米のClavicordiumにあたります。したがってハープシコード(チェンバロ)ではなく、当時ヨーロッパ全土に広まっていたクラヴィコードであると思われます。

初期のピアノの弦は、強度は低いが加工性の高い、オスムンド鉄と呼ばれるスウェーデン製の極低炭素鋼を用いていました。楽器弦として真鍮線が鉄線に先行したのは、加工性の違いで、線径1mm未満の弦を作るには真鍮の方が鉄よりはるかに容易だったのでしょう。高炭素鋼の伸線が試みられたのは17世紀後半で、高炭素鋼(スチール)弦が実用化したのは19世紀になってからのことです。」

-結論と考察-
この時代、社会環境の大幅な変化から人々の鍵盤楽器に対する「より豊かな音量、より高い表現力、より安定した響き」との欲求が大変高まっていた。音楽を提供する側である音楽家も、音楽業界を取り巻く状況の変化に対応すべく、同様の欲求を持っていたと考えられる。
しかし、その欲求を満たすには様々な工夫が必要であった。
アクションの開発、複弦化、巻線技術の導入、強靭な弦の導入、堅牢かつコンパクトなフレームの開発などである。
年表からは、アクションの開発が先行し、巻線等の技術が追いかけ、弦の強化を経て堅牢フレーム開発といった経緯が読める。これは、職人たちの智と技がまずあって、発展した工業技術がそれを補完し更なる進化へと導いた、と考えられる。ピアノの生み出される現場も工房から工場へ、職人にとっては統合から細分化・専門化へと進んで行ったと思われる。
進展速度としては、クリストフォリの発明から半世紀ほどは緩徐な歩みで開発されていたものが、1760年頃から加速度的な勢いで技術革新と大量生産化が推し進められていった様子が伺われる。
こと弦の技術開発に関しては、「純粋な銅と真鍮の針金」で、職人の作った最高の弦がハープシコードになる、と歌われていることからも、音楽弦は旧来より、金属線加工品の中でも最も緻密なものであった。弦の製作法は初期のピアノ開発においてはチェンバロやクラヴィコードでの延長線上にあったと思われるが、ダイヤモンドダイスの発明が転機となった。「このダイスを用いた最初のワイヤがブロードウッド社のピアノ弦に用いられた」事からも、当時の人々が如何に強靭さと緻密さを併せ持った弦を渇望していたかが伺われる。

そしてその弦の実現が大きな張力にも耐える堅牢なフレームの開発を必要とし、最終的にはピアノ作製の技術はもはや重工業の力無しには存在出来ないところまで行き着いた。
さらに、市場がヨーロッパのみならずアメリカにも広がり、産業としてのピアノは他の楽器を圧倒し、楽器の王様とさえ呼ばれるようにもなった。日本においても現在、全国のどの町にもピアノ教室が存在するほどにピアノは世界的に普及した。産業革命が生み育てた楽器、それがピアノなのである。
その反面、音楽業界では近年、ピリオド楽器への回帰がブームの域を越えて定着している。チェンバロの復刻や演奏会が度々行われ、ルネサンス時代の音楽も録音されるようになるなど、従来「古楽」と括られてきた分野が業界で大きな存在になってきた。それらはかつて「より豊かな音量、より高い表現力、より安定した響き」を指向する中で、捨て去られた音や響きであるのに。
その原因は、現代ピアノに代表されるモダン楽器の、豊穣だけれど整いすぎた響きに心の何処かで違和感を覚え、もっと自然な音、微妙に不規則に揺れる響きに心地よい何かを人々が感じるようになってきたからではないだろうか。
一方、社会に目を向ければ、いまや世界的とも言える地球環境保護やエコロジーの運動は、産業革命以来の工業技術の発達は必ずしも正しくはなかった事を示唆している。
強引に言えば、それは産業革命の申し子であるピアノという楽器にも向けられた非難と言えなくもない。

また、バッハ→モーツァルト→ベートーヴェンの時代は正にピアノ発達の渦中にあった。社会的には1789年にフランス革命も勃発しており、殊にベートーヴェンの作曲生活は如何なるものだったろうか。大変興味が沸くが、ワシの力では到底及ばないのでこれ以上は突っ込まない。

最後に・・・
ワシ自身はクラシック音楽が好きだし、ピアノ曲も嫌いではない。グレン・グールドの弾いたバッハやリスト編曲ベートーヴェンの「田園」のCDは死ぬまで聴き続けるだろう。
しかし、時には心を鬼にして、現代人としてクラシック音楽と向き合わねばならない、とも思っている。現在あるクラシック音楽は、歴史的結果としてアジアやアフリカを犠牲にした上で成立し、本来異なる文化を持ったそれらを新たなマーケットに加えることで繁栄の一助としてきたことは多分間違いない。
時代を精一杯生き、名曲を生み出したバッハやモーツァルトやベートーヴェンらに責任を負わせる事は酷だが、彼らの生きた時代や近代文明の側面について考えてみるのは間違いではないし、彼らの生き方を想像する事は、作品が新たな輝きを見せてくれることにもなると思っている。

-主な参考サイト-
・Wikipediaより「ピアノ」「フォルテピアノ」「バルトロメオ・クリストフォリ」「ゴットフリート・ジルバーマン」「ヨハン・クリスティアン・バッハ」
・ピアノ史メモ年表
http://www.terra.dti.ne.jp/~emikosan/pianonenpyou.html
・ピアノ本体について
http://www2.plala.or.jp/CHAKA/pianoflame2-1.htm
・名古屋のピアノ専門店 親和楽器 ピアノ調律
http://www.m-shinwa.co.jp/cyouritu/cyouritumoushikomi.htm
・ ピアノ概論  ※「ピアノの歴史/8.産業革命とフランス革命」もこちらのサイト
http://piano.s20.xrea.com/
・ピアノの改良に歩調を合わせた大作曲家
http://www.yamaha.co.jp/plus/piano/?ln=ja&cn=10302&pg=2
・ピアノの歴史
http://www.miyajimusic.com/piano/known/known1_1.php
・ピアノとピアノ調律:ピアノの歴史
http://www.kenjihouse.com/page_folder/pianopage_folder/pianostory.html
・チェンバロと18世紀のフォルテピアノ 下西美都|shimonishi-mito.net
http://shimonishi-mito.net/cembalo/
・ブロードウッド・ピアノ | 鍵盤楽器奏者 山川節子オフィシャルサイト
http://setsuko-yamakawa.jp/tag/%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%89%E3%82%A6%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%94%E3%82%A2%E3%83%8E
・ピアノの歴史
http://www.k3.dion.ne.jp/~klaviers/page011.html
・ピアノ物語 ピアノが日本に入ってきたのはいつ?どのように?
http://www2.ocn.ne.jp/~lemonweb/p.story_page/page8.htm
・ピアノ発達史年表
http://park11.wakwak.com/~md440/cgi-bin/history.cgi
・ピアノ発達史年表 PDF
http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=%E3%83%99%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%80%80%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%89%E3%82%A6%E3%83%83%E3%83%89%E7%A4%BE%E3%80%80%E3%83%80%E3%82%A4%E3%83%A4%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%80%E3%82%A4%E3%82%B9&source=web&cd=1&ved=0CCUQFjAA&url=http%3A%2F%2Fhomepage3.nifty.com%2Fsunadapiano%2Fera1800.pdf&ei=bnGnTorqJMjxmAW8ut2fDw&usg=AFQjCNFZ5S7-S87JsxhqIdAruVZsT8qdBg&sig2=61Cts8VsxNkQDQ30vfvKAw&cad=rja
・伸線ダイスについて
http://toishi.info/lexicon/sagyou/shinsen.html
・産業革命 Wiki
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%A3%E6%A5%AD%E9%9D%A9%E5%91%BD
・産業革命 | 学習百科事典 | 学研キッズネット ※お子様向け 簡単で分かりやすい!
http://kids.gakken.co.jp/jiten/3/30017290.html

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